赤富士・紅富士・ダイヤモンド富士のちがい

赤富士・紅富士・ダイヤモンド富士は、どれも「富士山が赤や光に染まる」話なので、混ざって覚えられがちです。この記事では、辞書と公的機関の定義、国立天文台の暦データを使って、この三つ(+パール富士)が何で分かれるのかを整理し、東海道新幹線の車窓から狙えるものと原理的に狙えないものを、理由つきで書きます。
赤富士は「夏の朝」に起きる
デジタル大辞泉は赤富士を「雲・霧と朝日との関係で、晩夏から初秋にかけての早朝に、富士山が赤く見える現象」と説明しています。精選版 日本国語大辞典も「晩夏から初秋にかけての早朝、裏富士が真っ赤に見える現象。雲や霧の濃淡と朝日の微妙な兼ね合いによるものといわれる」とし、俳句では夏の季語に分類されます。つまり赤富士を決めているのは、季節(晩夏から初秋)と時間帯(早朝)です。
赤く見えること自体は、朝焼け・夕焼けと同じ理屈です。気象庁は「太陽が地平線に近いので、太陽光が大気を通過する距離が長くなり、波長の短い光は途中で散乱されてしまい、波長の長い赤色の光が多く地上に届きます」と説明しています。
この季節の富士山に雪はほとんど残っていません。甲府地方気象台が発表する初冠雪は平年で10月2日ですから、晩夏の富士山は岩と火山礫のむき出しの斜面です。ただし、よく見かける「雪のない山肌が赤くなるのが赤富士」という言い方は、国語辞典の語釈にも公的機関の資料にも根拠を見つけられませんでした。
赤富士といえば葛飾北斎の「冨嶽三十六景 凱風快晴(がいふうかいせい)」です。文化庁の文化遺産オンラインに載る東京富士美術館所蔵品の解説によれば、制作は天保元〜3年(1830〜32年)頃、「凱風」とは南風のことで、「夏から秋にかけての晴れた早朝に、富士が山全体を赤く染めて輝くことがあるという」とされています。
紅富士は「雪の富士」が染まること
紅富士は一般に、雪をかぶった富士山が朝夕の低い光を受けて、ピンクから紅色に染まった状態を指して使われます。ただしこの語は主要な国語辞典に富士山の現象としての項目がなく、定義を明記した公的資料も見つけられませんでした。光の理屈は赤富士と同じで、違うのは光を受け止める面が黒い山肌か白い雪面かという点と、季節が冬だという点です。
呼び名として地域に定着していることは確かで、山中湖村の村立温泉施設は「紅富士の湯」という名前です(忍野村の助成制度のページに記載があります)。ただしこれは施設名であって、現象の定義ではありません。
雪をかぶる時期については 初冠雪と四季で変わる富士山の姿 で扱います。
ダイヤモンド富士は、場所と日付が先に決まる
ダイヤモンド富士は、赤富士・紅富士とは種類の違う現象です。野田市の解説では「太陽が富士山頂に重なる瞬間、富士山頂で太陽がダイヤモンドのように輝く光景」とされています。染まるのではなく、重なる。だから見る場所が決定的です。
国土交通省関東地方整備局は「富士山が東か西の方向に見える場所で、気象条件がよければ、年に2回」見ることができるとしています。朝と夕のどちらになるかは場所で決まり、野田市は「朝日のダイヤモンド富士が見られるのは、必ず富士山の西側地域で、夕日のダイヤモンド富士が見られるのは、富士山の東側地域です」と説明しています。年2回になるのは、地球が自転軸を傾けたまま公転していて、太陽の昇る方角・沈む方角が毎日少しずつ動くためです。方角の変わらない富士山に、動く太陽の方位が年2回だけ重なります。ただし野田市自身は、日没の方角と富士山の方角が重なる北限に位置するため年1回しか見られない、としています。
太陽の方位がどれだけ動くかは、国立天文台の暦計算室で確認できます。静岡での日の出の方位は、夏至の2026年6月21日が北から測って60.3度、冬至の2026年12月22日が118.4度。日の入りは同じ日で299.7度と241.6度です。この振れ幅の中に「自分の場所から見た富士山の方角」が入る日が、その場所のダイヤモンド富士の日です。日付と時刻は前もって計算できますが、場所が外れていればどれだけ晴れても見られません。

パール富士は月の場合
同じ重なりを月で起こしたものは、パール富士と呼ばれます。御殿場市の公式サイトには2017年12月の「パール富士観望会」の記録があり、参加者が「紅に染まった世界遺産富士山の山頂に落ちる満月」を眺めたとあります。ただしこの語についても、公的機関による定義は見つけられませんでした。太陽と違って月には満ち欠けがあり、満月に近いことと、月の出入りの方角・時刻が条件に合うことを同時に満たす必要があるため、機会は限られます。

新幹線の車窓から狙えるのはどれか
先に結論を書くと、ダイヤモンド富士とパール富士は車窓向きではありません。赤富士も時間帯の都合で難しく、可能性があるのは冬の夕方の紅富士です。
ダイヤモンド富士が成立しない理由は方角です。東海道新幹線は富士山の南側を東西に走り、最も大きく見える新富士駅の付近では、富士山はほぼ北の方角にあります。ところが静岡での太陽の出入り方位は、最も北寄りになる夏至でも日の出60.3度・日の入り299.7度。太陽が北の空から昇ることも、沈むこともありません。見どころの区間では原理的に起こりません。富士山から東西に離れた区間なら方位の条件を満たす地点はありえますが、列車は数秒でそこを通り過ぎるため、通過の瞬間と日の出・日の入りの時刻が一致する必要があります。狙って合わせられるものではありません。
赤富士が難しい理由は時間帯です。静岡の日の出は8月1日で4時56分、31日で5時18分(国立天文台)。一方、JR東海の2026年3月ダイヤ改正の資料に載る朝いちばんの上り「のぞみ」は新大阪6時00分発・名古屋6時49分発、東京着8時23分。この列車が富士山の南に差しかかるのは7時台の後半で、赤富士が現れる日の出直後には、まだ列車が富士山まで来ていません。下りも、当サイトが使う2026年3月14日改正のダイヤデータでは東京発の始発が6時00分(のぞみ1号)で、推定オフセットでは富士山の横が6時40分ごろ。上下どちらも、日の出から1時間以上あとです。
紅富士に可能性があるのは、冬の日が短いからです。静岡の日の入りは12月1日が16時35分、22日が16時39分(国立天文台)。この時間帯には新幹線が何本も走っています。雪をかぶった富士山が夕日で染まる時間に、ちょうど車窓にいることはありえます。座るのは上りなら左側、下りなら右側です。線路が富士山の南を通るので上下どちらでも同じ窓側で、普通車ならE席、グリーン車ならD席です。とはいえ冬でも雲に隠れる日はあり、夕方は逆光や窓の映り込みも出ます。見えない日のほうが普通だと思って乗るくらいがちょうどよいです。
自分の乗る列車が富士山の横をいつ通るかは、新幹線で富士山(時刻計算) に号数を入れると出ます。新富士は「のぞみ」の通過駅で公式の通過時刻がないため、表示される時刻はあくまで推定です。同じ画面の天気カードに富士市付近の日の入り時刻も出るので、自分の通過時刻と見比べれば、紅富士の時間帯に当たりそうかの見当はつきます。撮り方は 走る車窓から富士山をきれいに撮る方法 にまとめました。
出典
- 文化庁 文化遺産オンライン「冨嶽三十六景《凱風快晴》」(東京富士美術館蔵)
- コトバンク「赤富士」(デジタル大辞泉/精選版 日本国語大辞典)
- 気象庁「雲・大気現象・大気光象について」
- 甲府地方気象台「甲府から観測した富士山の初冠雪のお知らせ」(令和7年10月23日)
- 国土交通省 関東地方整備局「ダイヤモンド富士」
- 野田市「シリーズ19 富士山と太陽が織りなす芸術的瞬間 ダイヤモンド富士」
- 国立天文台 暦計算室「静岡(静岡県)のこよみ」
- 国立天文台 暦計算室「暦要項 令和8年(2026年)二十四節気および雑節」
- JR東海「2026年3月ダイヤ改正について」(2025年12月12日)
- 御殿場市「パール富士観望会@みくりやキッチン」(御殿場の魅力)
- 忍野村「山中湖村立温泉施設(紅富士の湯・石割の湯)利用助成制度」
このページの図版はすべて生成AIによるイメージで、実景の写真ではありません。